■ アイドリングのハンチングを直そう!
report: 2006/12/11
update: 2012/08/14


以前よりターボ付きのシティでは、"ゥワ〜ン!ゥワ〜ン!!" とアイドリングが周期的に上下するハンチング現象がよく見受けられますが、これはファストアイドルバルブを交換すれば直りました... 部品が出た頃は...(遠い目)。

そんな話題が COL BBS に出ていた時、ひこさんより "ファストアイドルバルブの蓋を開けて、中のネジを 10 円玉で回して調整すれば直る!" との貴重な情報が!

COL BBS で相談されていたホー助さんもこの手で直ったそうなので、実際にハンチングしてたというホー助さんの部品取り車のファストアイドルバルブ(以下、ハンチング品)と、新車から走行 40,000km ぐらいの後期型ブルから取り外したというタコス君の中古在庫品(以下、正常品)をお借りして、内部構造と特性を確認してみました!

ところで、なぜハンチングがおきるのでしょう?

シティのターボエンジンには "減速時燃料カットシステム" があります。走行中に 1,200rpm 以上でアクセルを全閉にすると ECU がエンジンブレーキ状態と判断し、燃料噴射をカットして燃費を向上させます。回転が落ちてくると 800rpm で燃料噴射を再開します。ただし、エンジンの燃焼状態が悪い暖機中には燃料カットは行われません(水温 70℃ 以下)。

この前提でハンチングが起こる状況を考えると、
  1. 水温が 70℃ 以下の時は、アイドリング回転数が高くてもハンチングは起こらない。
  2. 水温が 70℃ になった時、ファストアイドルバルブが閉じきらないためにアイドリングが 1,200rpm を超えていると、ECU がエンジンブレーキ状態と勘違いして燃料カットを行う。
  3. 燃料カットが働くと回転が落ち始めるが、800rpm になると燃料噴射が再開されてアイドリング回転が再度上昇する。
  4. さらに水温が上がり、アイドリングが 1,200rpm 以下になるまで 2⇔3 が繰り返される(= ハンチング)。
  5. 水温が上がりきってもアイドリングが 1,200rpm 以下に落ちない場合は、いつまでもハンチングが続く。
ということになります。



いきなりバラバラですが(バラす前の写真を取り忘れたとも言う ^^;)、これがファストアイドルバルブを分解したところです。

① がワックスの入った容器です。これを冷却水で加熱するとワックスが膨張し、バルブ ② を左から押します。

バルブとバルブシート ③ はボディの中に入っています。水温が低い時はバルブの頭とバルブシートの間にはクリアランスがありますが、水温が上がるにつれて膨張したワックスによりバルブが押されてクリアランスがだんだん狭くなります。そして、水温が 70℃ を超えるとバルブとバルブシートが密着します(正常なら)。このクリアランスの変化に伴いアイドリングがだんだん下がって、暖機後は平常のアイドリング回転に落ち着きます。

④ はアイドルアジャストスクリューです。



ファストアイドルバルブの蓋を開けて中を見るとこんな感じです。

黒いバルブシートを 10 円玉などで回して上下させることにより、バルブとバルブシートのクリアランスが変わります。

写真はありませんが、蓋を止めている M5 の + ビスが固着していて、緩める時にナメてしまうことがあるそうです。分解する時は慎重に。もし、ナメてしまった時は、慌てず騒がず、バイスグリップ(ロッキングプライヤー)などで頭を強く挟んで回してみてください。



まずはハンチング品のリフト量の温特を測定してみました。

縦軸がリフト量 L(mm)、横軸が水温 Tw(℃)です。ほぼ直線的なので、最小二乗法で平均化してみたところ、

   L = 0.073Tw + 0.2 (mm)

となりました。

まぁ、素人測定の誤差を考えれば "水温とリフト量は比例する" と判断しても問題ないでしょう。



次に、水温 20℃ における正常品とハンチング品の左図の d の深さをノギスで測ってみました。

      正常品 = 6.6mm
   ハンチング品 = 7.6mm

ハンチング品の方が、やはり同じ温度でクリアランスが大きいようです。原因はワックスの劣化だと思われます。

とりあえず、ハンチング品も水温 20℃ で 6.6mm に調整すれば良さそうですが、劣化したワックスのリフト量の温特が正常品と同じかどうかが気になるところです。そこで、ハンチング品も正常品と同じ 6.6mm(at 20℃) に調整してから d の温特を大雑把に測ってみたところ、以下のようになりました。
これならバルブシートの調整だけで大丈夫そうですね ^^)

先に測定したリフト量がそのまま使えそうなので、これを元に深さ d を式にすると、

   d = -0.073Tw + 8.1 (mm)

となります。分かりやすいように 5℃ 刻みで表にすると、
となります。

これを目安に水温に応じて深さ d を求めてバルブシートを調整すれば、大体正常になると思います。

但し、今回基準にしたのはあくまでも新車から 40,000km ほど使用したファストアイドルバルブなので、調整後、冷間時にアイドル回転数が 1,500〜2,500rpm になるように微調整してください。

ちなみに、バルブが閉じた時の深さ d は 2.8mm なので、表のグレーのところでは既にバルブが閉じていることになります。サービスマニュアルの 70℃ と大体合いますので、このデータで調整しても大きく外していることは無いと思います。

また、新品に交換したが冷間時のアイドリングが 1,300rpm 迄しか上がらず、元に戻したという事例もあるようですので、とりあえず測定などせずに、冷間時と暖機後の回転数を見ながら何回か調整すればよいかもしれませんね ^^;



これは今回の分解/調整用に、コインドライバーを削って作ったバルブシートを回す冶具です。

調整するだけでしたら 10 円玉でも良いと思いますが、中のスプリングが強くて結構硬いです。バルブシートの材質は樹脂なのでナメないように気をつけてください。

また、分解して洗浄する場合ですが、中のスプリングが強いので、組み立て時に結構強い力で押した状態でバルブシートのネジ山を噛み合わせてやる必要があります。バルブシートのネジ山は樹脂製です。少し斜めでも簡単に噛んでしまうと思いますので、分解するならこのような冶具を用意するなどして慎重にやった方が安全だと思います。



さて、その覚悟(?)でファストアイドルバルブをバラすと、中には左の 4 つの O リングが使われています。

サービスマニュアルではファストアイドルバルブは "非分解" 扱いですので、これらの O リングはホンダからは供給されません。しかし、どれも硬化して変形していますので、分解洗浄するなら出来るだけ交換しておきたいところですよね?



いろいろ調べたところ、規格品では以下のものがサイズ的に近かったので取り寄せてみました。

   ①:JASO-1028 (内径 = 27.7mm、線径 = 1.9mm)
   ②:JASO-1019 (内径 = 18.8mm、線径 = 1.9mm)
   ③:JASO-1028 (内径 = 27.7mm、線径 = 1.9mm)
   ④:S-6       (内径 =  5.5mm、線径 = 1.5mm)

現物と取り寄せたものを比較してみると、①、②、③ はほぼ OK ですが、④ はちょっと小さめでした。感覚的には 内径 = 5.8mm、線径 = 1.5mm ぐらいが良さそうですが、規格品ではちょうど良いのが無いですね。S-6 でも何とか使えそうでしたが、変形はしているものの特に劣化はひどくなかったので、今回は ④ については元の物を再利用することにしました。

S 番の O リングは O リングを扱っている店なら一般的に在庫しているようですが、JASO 番はほとんど取り寄せになるようです。

JASO-1028 の代わりには S-28(内径:27.5mm、線径:2.0mm)でもとりあえず使えます。しかし、JASO-1019 は S 番だとちょうど良いのが無いですね。

ちなみに、ファストアイドルバルブとスロットルボディの間に入っている O リング 2 個ですが、パーツリストでは "13.7 x 1.3" となっていますが、規格品の S-14(内径 = 13.5mm、線径 = 1.5mm) が使えると思います。純正品が出るうちは純正品の方が安心だと思いますが、出なくなったらこちらでも大丈夫だと思います。とりあえず、参考まで。



こうしてファストアイドルバルブの調整が済めば、あとは暖機してアイドルアジャストスクリューでアイドリングを正規に合わせれば良いはずですが... 運が悪いと "一難去って、また一難" というケースがあります ^^;;;

このアイドルアジャストスクリューが固着して回らない個体が時々いるようです。タコス君も過去にやはりナメたことがあり、逆タップで回そうとしたら逆タップが折れ、ファストアイドルバルブを取り外してインパクトドライバーで回そうとしたら、打撃の衝撃で底の蓋が割れたそうです。

そして今回お借りしたホー助さんのファストアイドルバルブですが、こちらがみごとに固着していました ^^;



これがアイドルアジャストスクリューです。左が固着していたもの。右が正常なものです(両方とも真鍮製)。

固着していた方は、案の定マイナスドライバーでは簡単にナメてしまいました。まぁ、こうなることは予想していましたので、慌てず騒がず、リューターで頭にマイナスのスロットを掘りました(写真はあとからきれいに整形したものです)。

これならさすがに回るだろうと、ラチェットハンドルに市販の 1/4' HEX のマイナスビットをアダプターで装着し、手持ちで回そうとしたところ... マイナスビットがいとも簡単にネジレて回りません ^^;



仕方が無いので、KTC の 5/16' HEX のインパクトドライバービットを削って作った冶具です。

ファストアイドルバルブを万力に固定し、T ハンドルに両手を掛けて力いっぱい回したら... やっとのことで回りました。ちょっと分かりにくいですが、冶具の先のブレード部がネジレています(厚さ = 1.6mm ^^;)。

普通、緩まないボルトって、 "バキッ!" っていう感じで一旦緩むと、あとは比較的軽く回りますよね?ところがこのアイドルアジャストスクリューは、最後まで力ずくで回さないとならないような、そんな手ごたえでした。



外したアイドルアジャストスクリューのネジ山の拡大です。

固着していた方(左)は、ネジ山の先端が削れて平らになっていますね。
この真鍮製のネジの相手方はアルミなのですが、アルミ側のネジ山がサビやゴミで太ってしまい、結局やわらかい真鍮のネジ山を削りながらやっと外れたようです。どうりで最後まで硬いはずだ ^^;

と、最悪ここまで固着していることがありますので、アイドルアジャストスクリューを回す時は慎重に!



ちなみに、固着で苦労したタコス君は、その後、固着予防の意味も含めて半年に 1 度はアイドルアジャストスクリューが回るか確認しているそうです。皆さんも、転ばぬ先の杖で真似してみてはいかがでしょう ^^)